SJ編集長エッセイ 006
WANDERLUST

MOTORCYCLE MAKES A MAN

WANDERLUST 006

MOTORCYCLE MAKES A MAN

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MOTORCYCLE MAKES A MAN

最近はトレランや自転車の人力系イベントに参加する機会が多くて、そんなことばかりをここで記事にしてきたから自分でもうっかり忘れていたけど、エンジンがついているバイクも大好きで、中でもオフロードバイクと呼ばれる不整地を走るのが特に好きです。

そんなことをここで宣言したところで、興味ない人にとってはそんなこと知ったこっちゃないのは、その通り。きっとバイクはうるさくて迷惑で危険な、何一つ良いことのない6本目の足の指みたいな存在だろう。ましてやオフロードバイクなど、泥まみれで汚いというオマケまでついてくる。もしあなたの家族に1人でもオフロードバイクの愛好者がいたとしたら、下を向いてご愁傷様でしたとお伝えしたいくらいだ。

なので、この先は、バイクに少しは興味あるかなぁと言う方に向けて書きたいと思う。

少しばかりマニアックな話も含まれるので、興味ない人がうっかりと読んでしまわないように先にお伝えしておきます。

さて、そんなオートバイの世界に、Motorcycle makes a manという有名なキャッチコピーがある。「モーターサイクルが一端の大人に鍛えてくれる」みたいなニュアンスと思われる。この言葉、昔は英国に伝わる諺だと言われていたような気がするけど、どうやら違うようだ。どなたか存じ上げないが、日本の優秀なコピーライターが作ったという説もある。

16歳からバイクに乗りはじめ、数え切れないくらいたくさんの危ない目に遭ってきた少年時代。
そんな昔を思い出して、初めてこのコピーを知ったときに心底感心したものだ。

まさに、ボクはオートバイに大人にしてもらった。

と、ここで、話題は唐突に変わります。つい先日のことだ。

BMWのR1250GS。まさに巨大なオフロードバイクだ。

BMWが主催する、 GS TROPHY(トロフィー)という大会に参加してきた。BMWが販売するオートバイに(BMWってバイクも作っているってご存知でしたか?)、アドベンチャーバイクと呼ばれるカテゴリーがある。代表的な車種が、排気量1250cc、重さ250kgを超える巨大なオフロードバイク、R1250GSと呼ばれるモデル。世界のあらゆるフィールドを駆け抜けられる冒険用バイク、という位置づけで初代モデルが30年ほど前に開発され、世界中にアドベンチャーバイクブームを生み出した人気バイクだ。(さぁ、話がいよいよマニアックになってきたぞ)

かつては、スターウォーズでも有名な人気俳優のユアン・マクレガー氏が、GSで世界中を旅する人気番組なんてのもあったほどである。

今回参加したGS TROPHYは、このGSに乗るライダーが一堂に会して、日本代表を決めるという競技大会。ここで選ばれた上位3名のライダーは、翌2022年のGS TROPHY世界大会に向けて、日本代表として招待されることになる。まさにGS乗りにとっては憧れの大会であり、代表に選ばれれば名誉なことこの上ない。

かくも立派な大会ではあるが、GSに乗らないライダーにとっては全く知ることのない、未知のイベントでもある。実際、ボクもたまたまGSというバイクに2年前から乗り始めたことでこのイベントの存在を知った。周りから背中を押されて、予選大会(つまり今回のGS Trophyのことだ)に参加したのだ。いささか情けないが、「ボクの技術的には厳しい大会だけど、せっかくGSに乗っているのだから冷やかし半分で見てこよう」ということです。

いざ参加となると多少はお勉強も必要。そこで、過去の参加者のブログや動画をチェックして色々と調べたり、直接聞いたりしてきた。そして、知れば知るほど、このイベントの人気の凄まじさ(あるいはマニアックさ)に驚かされる。

世界大会は2年に一度の開催。代表招待選手に選ばれると、高額なウェア類一式から世界大会にかかる旅費全てをBMWが負担してくれるという、今時にしてはかなり豪勢な待遇だ。また、メディアに登場する機会も多くなり、まさにGS乗りにとっては最高のステータスを得ることになる。

大会の選考基準は速さを競うものではなく、ベーシックな操作の上手さ、そして知力や体力を競うということで、英語によるクイズ出題やトレランのような体力競技まで含まれ、総合的に優れたGSライダーを選出するという趣旨らしい。それ故に、本気で日本代表を目指すライダーは何年も体力トレーニングや英語の勉強をして準備をし、ライディング練習を繰り返し、満を持して参加しているという。

こんな真剣なイベントにボクのようなライダーが参加して良いのだろうかと、ちょっと知り合いの少ないパーティーに1人で参加してしまって居場所のないような、萎縮した気持ちのままに現地入りした。

大会は3日間に亘り、最終日午前中までの競技結果をもってファイナリスト10名が選ばれ、さらに同じ日の午後に最終的な勝者3名を決める決戦となる。

さてボクはと言えば、そんな人気競技に大した準備もせずに参加したものだから、ここで説明するまでもないような、お粗末な結果だった。いや、それはむしろ当たり前の結果なのだけど、残念ながら(というか意外にも)、親しい友人たちの多くもファイナリストにさえ残ることができなかった。

日頃の練習や意気込み、そして彼らのライディングの上手さを知っていただけに、あれほど練習してもダメなのかと、そのレベルの高さを今さらながら思い知らされる。

結果発表の場での、本当に残念そうなみんなの顔。

果たして最近のボクは、そこまで心底がっかりしてしまうような大きなチャレンジをしたことがあっただろうか。友人たちの顔を見て、中途半端な観光気分で挑戦した自分が少し恥ずかしくなってしまった。

MOTORCYCLE MAKES A MAN

ガックリとうなだれる皆の顔を見ていたら、やはりこの言葉が浮かんできた。

結果は残念だったけれど、ここまで本気でチャレンジできる競技があるというのは素晴らしい。この結果をもとに、皆さらに研鑽を重ね、次の2年後の大会に挑戦するのだろう。

やはり、オートバイは最高だ。うるさくて、危険な乗り物だけど、真剣に向き合えば、世界を広げ、友人を増やしてくれる最高の乗り物なのだ。

そんなことを思いながら、会場を後にした。

しゅう Shuichi Ashikaga