Mikami's Report 005

California Story

第2話

Mikami’s Report 005-2

California Story 第2話

Mikami’s Report 005

California Story

第2話

楽しくも不安な宿探し

 こうして海外を旅するときに宿を決めるのに使っているのが、スマートフォンアプリのトリップアドバイザーとグーグルマップ、ホテルズ・ドット・コム、エクスペディアなどだ。とくにトリップアドバイザーは自分の現在位置に近い宿を、予算や施設、口コミの評価順に表示してくれるので重宝している。

 もっとも、これらでは表示されない宿もあるので、好みの宿が見つからない場合は直接ホテルのウエブサイトを探して検索する。また、トリップアドバイザー経由よりもエクスペディアのほうが安い、あるいはその逆のこともあるのでここだと決めたら、一応両方で比較して決める。

 アメリカのモーテルの価格は、地域にもよるが最も安くて30ドル前後、だいたいは50〜80ドル程度。部屋は日本の同価格帯のホテルに比べたら遥かに広い。キングサイズのシングルベッドルームか、あるいはクイーンベッドのツインルームに泊まることが多いが、日本では2万円くらいするような広大な部屋であることがほとんど。これなら、高いホテルに泊まる必要なんて全然ない。

 では安ければ安いほどいいかと言うと、あまりに安いところはまず周辺が危険だったり、部屋があまりに古かったり汚かったり、あるいはあまりよろしくない感じの人々が多く泊まっていたりするので、とくに今回のように高級なバイクで泊まる場合には、それなりのホテルに泊まるべきだと僕は思う。

 さて、ヴェンチュラで時間を多く使ってしまったので初日にモントレーまで行くなんて全然無理となった。あくまで取材で走っている以上、真っ暗な中を走るのは意味が無い。

 ベンチュラのサブウェイで遅いランチを食べながら、サンタバーバラから160㎞ほど先のサン・ルイ・オビスポ周辺まで行こうと決めた。まだ3時くらいだから、午後6時か7時くらいには着けるだろう。宿の候補をいくつかリストアップしてから走り出した。

建物が近づいてくる!

 サンタバーバラの近辺で撮影スポットを探しながら寄り道を重ねていたら、街を出る頃には日が落ち始めてしまった。オレンジ色に染まり始めた海の色を見ながら北上するが、ナビを見るとこの先、道は内陸にそれてしまう。それでは夕焼けの写真が撮れない。

 そこで、より海に近いルートで……と思ったのだが、ハイスピードで101号を走っていたらそのまま内陸のロンボク方向に入ってしまった。しまった、どこかで下りなきゃ……と思ったが、出口がない。やっと標識が見えたと思ったら、20㎞も走らないと出口がないと知る。

 道の両側は牧場だ。しかも、かなりの傾斜の山だから、そこを越えていく道があるようにはとても見えない。牧場の向こうが美しくオレンジに染まっていくその向こうに、美しい太平洋の夕焼けがあるはずなのだが……完全にタイミングを逃してしまった。

 ロンポクという街でガソリンを入れている間に、陽は落ちてしまった。あとは宿まで走るだけだ。ガソリンスタンドには必ずあるフードストアでコーヒーを買って飲み、ちょっと休んでから走り出した。

 ミッションヒルズ、オーカットと抜けていく1号線の両側はもう真っ暗だ。おそらく周囲は美しい田園地帯なのだろうが、夜は暗く寂しいだけだ。茨城か栃木の農道を走っているような気分で、ひたすら走る。たまに冷気の溜まっている場所があるようで、寒さが体に浸みてくる。

 真っ暗な農道の左側に、工場なのか? あるいはビニールハウスなのか? こうこうと灯りを灯した巨大な建物が近づいてきた。なんなんだろう? そう思っていたが、なんだかおかしい。こちらは100㎞近い速度で走っているのに、なかなか近づかないのだ。なんだか建物が逃げているようで気持ちが悪い。疲れてきて、しかも夜だから、僕の感覚がおかしくなっているのだろうか。

 暗闇の中で、その建物がやっと間近になってきたと思ったら、今度はその建物が動いて僕のほうに近づいてきた。このままじゃぶつかる! なんだこりゃ! と思ったら、それは建物ではなく、2階建ての列車だった。アメリカの国営鉄道、アムトラックの列車だったのだ。

 ぶつかると思ったのは立体交差で、僕は光を放ちながら走るアムトラックの上を越えていったのだ。そのあとしばらく、線路沿いを並走する。客席に誰もいないようだから、回送電車なのだろうか?

アロヨ・グランデ

 アムトラックとも分かれ、寂れた雰囲気の街をいくつか越えるうちに時刻は7時を回ってしまった。東京だったら「まだまだこれから」って感じだが、真っ暗なカリフォルニアの田舎ではもう限界だ。サン・ルイ・オビスポの手前にあるアロヨ・グランデという街のマクドナルドの駐車場で、またホテルを検索した。すぐ近くに「本日特価」となっているホテルが見つかったので、そこに泊まることにした。

 10分もかからずに到着したホテルは、ジャグジーなどの設備もあるかなり立派なホテルだった。フロントのメキシコ人らしき老人もいい人で、「バイクだったら1階のほうがいいでしょう。目の前にバイクが駐められるし」と奥まった場所にある部屋を用意してくれた。

 部屋に行き、GSのパニアケース、トップケースを外して、ホテルの反対側にあるショッピングモールに買い物に行った。ワインとナッツ、コカコーラゼロを買ってホテルに戻る。店員が紙袋でモノをよこしたので、苦労しながら両腕で抱えてバイクに乗る。部屋に戻り、ヘルメットを脱ぎ、シャワーを浴びてワインを飲む。やっと人心地着いた、そう思っている間にあっという間に眠りに落ちた。

カーメル郊外のガソリンスタンド&ジェネラルストアにて。レジではバイトの女の子が本を読みながら店番をしていた。
ガソリンスタンド併設のフードストアも、カーメルに来るとこれだけお洒落になる

まさかの二度寝

 アメリカのホテルはほぼ例外なく朝食が付いている。しかもこのホテルはデニッシュやコーンフレークではなく、コンチネンタルブレックファストが付いているらしかった。つまり、温かい目玉焼きやベーコンが食べられるということだ。朝7時から9時まで食べられるというので、それを食べてから出発しようと思っていたのだが……一度6時に起きたあと、見事に二度寝した! 時計を見たら、もう10時半だ。

 チェックアウト、11時か? そう思いながら慌てて荷造りする。すっかり陽の上がった表に出て、パニアケースをGSに取り付ける。ああ、もったいないことしたなあ、と思いながら。チェックアウト時刻は12時だったらしく、無事にホテルを出た。どこかで遅い朝食を食べよう。

 そう思ったのだが、海に向かって走り出したら、これがまったく何もない。昨日ホテルを探したマクドナルドのあたりにはたくさん店があったのだが、きっとそこがダウンタウンだったのだろう。昨日は夕食もきちんと食べてないのに。

 だが、カリフォルニアらしく青く澄み切った空の下を走っている間にそんなことは気にならなくなっていった。しかも、すぐに眼下に美しい海が見えてきた。なんだこりゃあ! ってくらい美しい。透明で、青い海がはるか彼方まで続いている。思わず鼻歌が出る。もちろん、ビーチボーイズだ。イーグルスだ。カリフォルニアだ!

 ピスモビーチ、アヴィラビーチと美しいビーチが続く。その手前のシェルビーチは、ビーチへと続く道の両側に立つ住宅街の風情が素晴らしかった。ああ、こんなところに一度でいいから住んでみたいなあ。

大当たりだったランチ

 アヴィラビーチから海沿いに岬を巡る道があるはずで、しばらく探したのだが入り口にゲートがあって入れない。あとで調べたら、その先に原発があるので立ち入り禁止になっているのだと知った。仕方なく、内陸を回る101号と1号で北へ。

 道の両側は、昨日と同じく牧場だが、透き通った日射しの下を馬や牛が草を食んでいるのを見つつ走るのは最高の気分だ。いい加減腹が減ってきたが、海沿いに出れば、きっとなにかあるだろう。

 海のに向かってまっすぐに走る1号線のはるか彼方に、なんだかボワーっと煙を漂わせる巨大な山が見えた。燃えてるのか? 山火事か?と思ったのだが、どうも違う。はるか彼方から見えるその山は、近づいてみたら、モロ・ベイの先端に浮かぶ「モロ・ロック」という丸い形状の岩山だった。

 面白いのは、周りには霧の気配なんて何もないのに、この山の斜面に沿って海霧が巻き上がっているのだ。どうなってるんだ? 間近に近づいてみたくなって、ダートを走って山の下まで行く。モロ・ロックの前は汽水湖になっていて、ペリカンなどの海鳥が羽を休めていた。

 事前知識はまるでなかったのだが、モロ・ベイの入り口には多数のシーフードレストランがあった。潮風に吹きさらされ、色の褪せた看板がいい感じだ。軽い朝食を……と思っていたのだが、もう昼だ。ここで何かを食べてもいいだろう、とそのうちの一軒に入ることにした。

 潮に洗われたような外観とは異なり、なかはかなり豪華だった。広い店内には大きな水槽があり、初老の夫婦たちがゆっくりと食事を楽しんでいる。高いかな、やっちゃったかな……と思いながら、案内された席に着く。テーブルのすぐ横の窓からは、モロ・ロックが海霧をまとって屹立しているのが見える。

結果的に、大正解だった。地場産だというサーモングリルとクラムチャウダーを頼んだのだが、どちらも素晴らしく美味しかった。クラムチャウダーはアメリカのそれらしく塊のような濃さで、サーモンはさほど脂ののっていない、それでいて美味しさがしっかりある、上品な味付けだった。レモンがよく合う。量もほどよい。

モロ・ベイ入り口のマリーナにあるGreat American Fish Company のフレッシュサーモングリル、14.95 ドル。シーフードレストランなのでもちろんオイスターやロブスターも。モロ・ロックを眺めながらの食事は本当に素晴らしい。スタッフもじつにフレンドリー!
bestfishrestaurantmorrobay.com



 舌鼓を打ちながら陽射しの差し込む窓を見ると、たくさんのボート、ヨットの浮かぶ湾のなかを、ぷかぷかとラッコが仰向いて流れていくのが見えた。ラッコだ! 野生のラッコだよ!残念ながら写真は撮れなかったのだが、素晴らしいランチタイムになった。

北上、北上

 大満足して店を出たのだが、考えてみればまだ、本来初日に走る予定だった行程の半分しか来ていない。
 予定ではモントレーで1泊、2日めにサンフランシスコで1泊、3日目はヨセミテかセコイアで1泊して帰る……という予定だったが、これでは後半の予定をキャンセルせざるを得ない。まあ、2日予備日があるので、セコイア方面はロサンゼルスに戻ってまた出直してもよい。寒いだろうし。

 そんなわけで、ラッコの浮かんでいた湾をもう一度眺めたりして、ゆっくり休んでからまた走り出した。地図を見ると、ここからモントレーまでは海岸から離れることなく1号線が続く。道が海とぴったり沿っているということは、きっと山がそれだけ海に迫っているということだろう。大きな街もなさそうだから、ガソリンがやや心配だ。もっとも、まだ半分以上残っているので、150㎞から200㎞近くは走るはずなのできっと大丈夫。

(第3話に続く)

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