Mikami's Report 005

California Story

第1話

Mikami’s report 005-1

California Story 第1話

「夢のカリフォルニア」と呼ばれる、アメリカ・カリフォルニア州。夢と言われる理由には、かつてのゴールドラッシュでアメリカンドリームを掴んだ人たちがいることも理由だろうし、一年中降り注ぐ美しい太陽が作る気候の良さも理由かもしれない。そのなかでも大都市であるロサンゼルスとサンフランシスコ間の短期間でツーリングしてみた。アドヴェンチャーとは言えない旅だけど、それは本当に美しい、驚きに満ちた数日間だった。

*この記事はFREE RIDE MAGAZINEの2014年5月号当時の記事の再掲載です。コロナや年月の経過を経て、当時とはかなり様相も異なる部分もございますので、ご注意ください。

Mikami’s Report 005

California Story

第1話

本州とほぼ同じ大きさ

 カリフォルニアは、言うまでもなく、北アメリカ大陸の西岸に位置する陽光に溢れたパラダイスだ。南はメキシコと接するサンディエゴから始まり、ロサンゼルス、サンノゼ、サンフランシスコと海沿いの大都市が続く。その北にはオレゴン州、ワシントン州がある。東側にはアメリカ最高峰であるマウント・ホイットニーを抱くシエラ・ネバダがネバダ州、アリゾナ州との間に壁のように屹立している。南北の長さは約1300㎞、東西の幅は約400㎞。南北の長さで言えば日本の本州に近い。ただし、東西の幅が広いため、面積は本州の倍近くある。

 このカリフォルニア州に住む人口は約3700万人。アメリカ最大人口の州ではあるものの、1億人が約半分の面積に住む本州と比べれば、その素晴らしい環境がなんとなく想像できるだろうか。

 日本の本州には山が多く、人が快適に住みやすい平野部が少ないことも加味すれば、カリフォルニアは過疎といってもいいくらい人口密度が低い。もっとも、ロサンゼルス、サンフランシスコなどの大都市は言うまでも無く過密だが……。

決まらない行き先

 カリフォルニアを訪れるのは、これでもう何度目だろうか。

最初は1985年、サンフランシスコ郊外のオークリーでのホームステイだった。そのときに、ヨセミテやロサンゼルスも訪れたし、サンフランシスコでバイクにも乗った。ホームステイ先のホストが所有していた、当時でもド旧車だったBSA・ビクターとホンダCL72だった。ビクターは右チェンジで、乗りづらかった。

 1990年以降は仕事でよく訪れるようになった。BAJA1000、ZZ-R1200でのボンネビル挑戦、ドラッグレースの取材などなどだ。その合間にバイクを借りて、OHVパーク(オフ・ハイウェイ・ヴィークル=いわゆるオープンエリア)を走ったり、ロードバイクでショートツーリングなどをしたこともある。

 だが、それはあくまで点の旅であって、カリフォルニアを線で繋ぐ旅をしたことはなかった。今回、仕事を兼ねて、カリフォルニアで開催されているオートバイのレース、ナショナル・ヘア&ハウンドに参戦することが決まったとき、そのあと無理すれば1週間くらい旅出来ることに気づいた。よし、走ってみよう、カリフォルニアを……と思ったのだ。

 だが、2月という時期が微妙だと思った。北に行くのはさすがに寒いだろう。ヨセミテや、一度行ってみたいセコイア国立公園などは雪で走れない可能性がある。寒いのはイヤだから、サンディエゴから東方面に行くか。あるいはルート66を走るか。結局、この旅の行き先は、ナショナル・ヘア&ハウンドが終わるまで決まらなかった。

思ったほど寒くない

 ロサンゼルスでBMWのアドヴェンチャーバイク、R1200GSを受け取った日に天気予報で各地の気温を見てみたら、サンフランシスコでも日中は15度近い気温になると知った。標高が高いセコイアでも、最高気温は10度近くになるようだ。

 今回の旅で走れる日は6日間だ。一度所用でロサンゼルスに戻らないと行けないので、前半3泊4日、後半1泊2日に日程が分かれるが、最初の4日間でサンフランシスコまで往復しよう。行きは2日間かけて海沿いを北上し、帰りは内陸部を走り、出来ればヨセミテかセコイア国立公園に立ち寄ってロサンゼルスまで帰ってくることに決めた。残りの2日間は、サンディエゴ方面に行ってもいいだろう。

 ロサンゼルスからサンフランシスコまで、海沿いの1号線を辿っていくと約460マイル(730㎞)。東京から青森くらいまでの距離だが、郊外の走りやすさを考えれば、写真を撮りながら走るにはちょうどいい。帰り、セコイアによると復路だけで800㎞近くになるが、サンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ大動脈である5号線も使うから、時間的な無理はないだろう。

 旅のスタート地は、サンタ・モニカに決めた。ルート66の西側の起点だ。R1200GSのパニアケースとトップケースに荷物を放り込んでいく。3日分の着替えと、レインウエア、万が一のためにKLANの電熱ジャケット、ワイヤーロック、チューブレス用パンク修理キット。それにパソコンとカードリーダー、充電器類を左右のパニアケースに分けて入れたらちょうど満杯になった。トップケースには撮影機材と財布、携帯電話とスペアバッテリー。ペットボトルの水とチョコレートも入れて、旅の準備は完了した。

旅の始まり

サンタモニカから、カリフォルニア州道1号線、PCH(PACIFIC COAST HIGHWAY) に下る交差点。カリフォルニア・アベニュー
ロサンゼルスの住宅街、高速道路沿いの多くの場所にはパームツリーが立ち並ぶ。幅広いフリーウェイ。青い空。カリフォルニア

 サンタ・モニカから州道1号線、パシフィック・コースト・ハイウェイ(PCH)に入る。オレンジカウンティで用事を済ませていたら昼近くになっての出発になってしまったが、郊外に出れば空いているだろうから、今日の(一応の)目的地であるサンルイ・オビスポ、あるいはモントレーくらいまでは行けるだろう。

 ロサンゼルスのダウンタウンからGSを走らせてきた僕は、高級車ディーラーや、お洒落なブランドショップの立ち並ぶサンタモニカ・ブルバードを西に向かう。

 下り坂になった道の向こうに海が輝いている。海を見下ろす突き当たりを右に折れ、PCHに入る交差点。右側に見える通りの標識が「カリフォルニア・アベニュー」であることに気づいた。幸先のいい旅の始まりのような気がした。

 いい気分でウインカーを左に出し、信号が青に変わるのを待って、海沿いを走るPCHへ、僕は滑り降りるように走って行った。

やはり行き当たりばったり

 もう随分前からのことだが、僕は旅するときに紙の地図を持って行くことはほとんどなくなってしまった。ガーミンなどのナビゲーションがあれば現在地やルートはわかるし、それ以上の情報が欲しいときには、iPhoneなどでGoogle Mapが見られるからだ。

 日本国内に限って言えば、行ったことのない道の様子がわかるツーリングマップルは使用しているが、海外でそうしたものを買ったことはない。今気づいたが、そうしたものを買うと、もっといい旅が出来るかも知れないなあ。

 ともかく。なので、僕の海外での旅は行き当たりばったりとなる。アメリカではとくにそうなる。なぜなら、アメリカはどこに行っても、街に行けば当日泊まれるモーテルがあるし、ガソリンスタンドも頻繁にあるからだ。バハカリフォルニアなどではなかなかこうした行き当たりばったりな、無計画な旅は難しいが、アメリカなら何の心配もない。

 ただし心配なのが、バイクへのイタズラや盗難だ。治安が悪そうな街で、自分から見えないところにバイクを一晩置くのはかなり怖い。あっという間に盗まれてしまいそうな気がする。

 その心配についてロサンゼルスに住む友人に聞いたら「部屋のすぐ前に置いて、ワイヤーロックをかけてカバーをかけていれば大丈夫」という結構ハードルの高い答えが返ってきた。ワイヤーロックは借りてきたが、カバーはない。また、ホテルも必ずしも目の前にバイクが駐められるとは限らない。

 別の友人は「Motel6なんかじゃなく、もうちょっといいランクのホテルに泊まれば大丈夫。ホリデイ・インとかさ」と言うのだが、残念ながら予算はそんなにないのである。

1号線を北上してすぐのマリブで、早くも大自然を感じられる眺めとなる。自然と都市の近さを感じる瞬間

ナビゲーション

 GSに純正採用されている、ガーミン製ナビゲーションシステムはじつに優れているが、こうした行き当たりばったりな旅には向かないところもある。入力した目的地へ到達するという本来の目的には申し分ないのだが、検索したルートが、ちょっと先にどこを通るのかを俯瞰しながら走る……という用途には向いていない。「時間優先」で経路探索し、指定通りに走っていると幹線道路ばかりになってしまうので、僕は「同じ方角に向かう」「より楽しそうな」道に勝手に入り込んでいく。

 このナビには「幹線道路を除外する」機能もあってこれはこれで面白いのだが、しかし時に凄い道(極端な回り道)に案内されることもあるので、今はオートズーム機能をオフにして、表示範囲の広い画面にしている。ところが、そうすると今度は細い道や町名が表示されなくなるのがちょっと残念な点。

 僕は狭くても、出来るだけ海に近い道に沿って走って行きたかった。サンフランシスコまでの太平洋岸を常に海を見ながら走る。これは、サンタ・モニカからPCHを北上し始めてから急に思いついたことだ。

 GSの場合は、ナビの画面を手元で拡大・縮小できるので、なるべく海に近い道を探して走っていく。というのも、PCHは必ずしもずっと海に沿って走っているわけではないからだ。場所によってはだいぶ内陸に入り、海が見えなくなってしまう。

ロサンゼルスから2時間ほど走ったヴェンチュラにあるパタゴニア本社、グレート・アイアン・ワークス

ヴェンチュラ

 ヴェンチュラまで来た。15年くらい前に来たっきりのパタゴニア本社に寄ったら、30%オフのセールをやっていた。下着でも買おうかと店内を物色していると、日本語で話しかけられた。生まれてすぐに渡米して、ヴェンチュラの北のオーハイという街に住んでいる、フジクラ・コウスケさんというスタッフだった。

 ヘルメットを預かってくれた彼と、しばらく会話しながら店内を歩く。このへんはいいところだよね、と言うと「ロサンゼルスまで遊びに行こうと思えば1時間ちょっとで行けるし、サーフィンも出来るし山もあるし、本当いいところです」。
 バイクにも乗ったことはあるそうで、WR250Fでデュアルスポーツライド(ツーリングラリー的なオフロードイベント)に参加したことがあるそうだ。

 そのあと、パタゴニアのすぐ近くにあるリアルチープスポーツというパタゴニア製品を扱うアウトレット店にも寄る。キャプリーンなどの定番製品を、本店で買うよりやや安い価格で買える店だ。登山用、キャンプ用などの機材も揃っている。
 こんな寄り道していたら、早くも日が傾いてきてしまった。

(第2話へ続く)

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