幻の鳥ケツァールを求め、中米コスタリカへ【後編】

幻の鳥ケツァールを求め、中米コスタリカへ【後編】

幻の鳥ケツァールを求め、中米コスタリカへ【後編】

ケツァールに会うべく、キューバから飛行機でコスタリカに降り立ったスタッフ・たむ。途中なぜかエルサルバドルを経由してしまったり、時差があることに気付かなかったり、危険地帯の市街地で麻薬中毒者からの洗礼に遭ったり、安宿ではなぜか国籍を疑われたり、と、一筋縄ではいかない。それでも、お目当てのケツァールを見に行くために奮闘し、とあるマニアックな個人ブログを見つける。

翌朝5時に起床し、バスセンターへと向かう。携帯の電波がなくなった時のためのリスクヘッジとして、その個人ブログの大量のスクリーンショットを携帯のアルバムに収めた。あとは、慎重に確認しながら、記載どおりに動くのみである。

チケットを購入し、正しいであろう方面のバスにも乗ることができた。あとは目的地で降りることくらいだ。その個人ブログによれば、72km先で降りるそうだ。バス停はないしアナウンスもないから注意、とのこと。

一体全体、どうやって72kmを把握するのだろう。

Maps.meというオフラインでも使える地図アプリを片手に、走行ルートと時間を確認する。うっかり寝てしまったら危険である。どこでも熟睡できてしまう自分の特技を封印し、眠気が襲ってくるたびに目をパチパチさせたり自分の手をつねってみたりして、なんとか持ちこたえる。72km先の下車タイミングを逃してしまったら、自分がどこに連れていかれるかも分からない。

やはり、運転手に事前に話しておく必要がありそうだ。

しかし、ここはスペイン語圏。運転手も間違いなくスペイン語を話すであろう。先述したとおり私は絶望的にスペイン語が話せない。どうにかこちらの意思が伝わったところで、相手の話していることがさっぱり理解できないのは、すでにキューバで体験済みだ。どうコミュニケーションしようか考えあぐねていると、座席と座席の間から、前の席に電子書籍で読書している若い男子がいることに気づく。

縦で書いてある文字を読んでいる。世界の言語で縦書きなのは、中国、台湾、日本。いや、中国は縦書きを廃止したんだっけ。

となると、台湾か日本だが、人口を考えると・・・、日本人かもしれない。

「あの、すみません、もしかして日本人の方ですか?」

「あ、そうです。」

なんということだろう。

アジア人すら見かけないこの土地で、さらにこのバスの中に日本人がいるなんて奇跡のようだ。

話してみると、大学生4年生で世界一周している最中らしい。行き先を聞くと、「それが、ちょっと曖昧で・・・」と話し始める。

まさかの、私が参考にしていた個人ブログを見てケツァールに会いに行こうとしているそうだ。偶然が重なった。

彼は簡単な会話であればスペイン語は分かるとのことで、運転手への交渉を任せることに。棚から牡丹餅とはまさにこのこと。これで無事にバス停には降りられそうだ。

彼のおかげで、目的地らしきバス停で無事に下車することができた。嬉しさと安堵が混じった感情が込み上げてくる。

さっそく携帯を取り出すが、案の定電波はない。リスクヘッジで保存しておいたスクリーンショットを確認しながら、ケツァールのツアーを行っているというロッジまで向かう。

ケツァールは別名「幻の鳥」とも称されており、自力で見つけるのはあまりに難易度が高く、滞在時間も短いため、ここは潔くプロのガイドに頼る。

ここでも、頼りになるのは個人ブログの写真と文章のみ。2人で何度も道に迷いながらも、なんとかロッジに到着した。

受付と事前支払いを済ませ、しばらく広々したロッジ内と庭でツアー開始時間まで暇を持て余す。

ツアー開始時間を過ぎても、一向に呼ばれない。さすがは中南米。

それから気長に待つこと30分。

ロッジ前に一台の車が荒々しく停車し、中からオーバーオール姿の男性が現れる。どうやら彼がガイドのようだ。

言われるがまま車に乗り込む。荒々しい道を荒々しい運転で進んでいく。車がどんどん森の中に吸い込まれていく。

数十分ほど経ったであろうか。どうやら目的地に到着したようだ。車から降り、ガイドが静かにお目当てのケツァールを探し始める。

自然を相手にしているため、そう都合よく見つけることができないのは承知していた。何カ所か場所を移動し、2時間ほど探し続ける。

今回は会えないかもしれないと思えてきたその時、

ガイドが静かに木を指差した。

・・・見えない。

見えない。

隣にいる大学生は見えると言っているが、私は見えない。

そうだ、自分の目が悪いことを完全に忘れていた。

旅に眼鏡を持ってこなかったことが悔やまれる。

ケツァールにせっかく出会えたのに、こんな無念なことがあってよいのだろうか。

それを察してくれたのか、たまたまなのか、ガイドが双眼鏡を貸してくれた。

・・・いた!!!!!!

緑溢れる木々のひとつに、ちょこんと止まっている発色の良い緑色の物体が見える。くりくりと丸い黒目に、口ばしの黄色がアクセントになっていて、見た目の可愛らしさが際立つ。あまりに可憐なその姿に、瞬きするのも惜しいほどである。

しばらく観察し続けていると、ガイドがもう1羽を発見。

「どうか2羽とも動かないで」と願って観賞していると、片方の1羽が飛んだ。

言葉を失った。

飛んだ姿の美しさたるや。

木に止まっている姿とは大きく異なり、飛んでいる姿は、誰もが「美しい」と口にせずにはいられないほどである。鮮やかな緑と赤の体に、黄色の口ばし、そして尾のような長い2本の羽をなびかせながら颯爽と飛ぶ。

これが、かの有名な手塚治虫の漫画『火の鳥』のモデルとなったとされる鳥か。

生き物としてこれほどまでに美しいものを見たのは、生まれて初めてである。

ケツァールを見ると幸せになれるという言い伝えもあるが、それはその希少性よりも、他を圧倒する唯一無二の美しさに心を打たれるからではないだろうか。

ケツァールの飛ぶ姿は、強烈な美として、これから先も私の脳裏から離れることはないだろう。

さあ、次は最終目的地、メキシコのトゥルムへ―――

たむ hosoyatamaki

COLUMN